高市総理の所信表明演説――連立合意からのトーンダウンPart②
緊急事態条項の危険性――国家が国民の権利を奪う可能性
連立合意の中で特に憂慮すべき項目が、憲法への緊急事態条項の導入です。
合意文書では、国会機能維持や緊急政令等に関する緊急事態条項の憲法改正を実現すべく、2025年の臨時国会中に自民・維新両党で条文案の起草協議会を設置し、2026年中に条文案の国会提出を目指すと明記されています。
維新の吉村代表も配信動画で「憲法9条改正や緊急事態条項の整備などを早期に進める」と踏み込んで言及し、自民党との合意事項として強調していました。
しかし、高市首相の所信表明演説では憲法改正について「在任中に国会発議を実現していただくため、建設的な議論が加速し国民的議論も深まることを期待する」と述べるにとどまり、具体的な項目(例えば緊急事態条項)には一切触れませんでした。ここでも詳細に踏み込むことを避け、一般論に終始した形です。
参政党が懸念するのは、この緊急事態条項がもたらし得る潜在的危険です。
緊急事態条項とは、大規模災害や有事の際に内閣が強権を発動できるようにする憲法上の規定ですが、一歩運用を誤れば国民の基本的人権を制限し、立憲主義を揺るがす恐れがあります。
例えば、内閣が国会の承認なしに政令で法律と同等の効力を持つ措置を次々と発することが可能になれば、行政権力の肥大化を招きかねません。
実際、自民党が2012年に公表した改憲草案では緊急事態条項として「内閣による緊急政令」を明記し、昨年9月に同党改憲実現本部がまとめた論点整理でも緊急政令を重要テーマとしています。
このことからも明らかなように、緊急事態条項における自民党の目的は国会の権能を奪い、内閣に権限を集中させることにあります。
戦前のドイツでヒトラー独裁を招いた「大統領緊急令」の例もあり、権力乱用の危険性は看過できません。
戦後日本は現在まで「緊急事態条項なき憲法」でやってきましたが、それはシビリアンコントロール(文民統制)と非常時でも権力分立・人権保障を維持するという先人の知恵でもあります。安易に憲法に非常大権を盛り込むことには慎重であるべきです。
高市政権・維新連立は改憲推進を掲げていますが、緊急事態条項を含む拙速な改憲論議には強く警鐘を鳴らしたいと思います。
緊急事態条項については、その必要性とリスクを国民に十分説明し、慎重に是非を判断するプロセスが不可欠です。
しかし現状では、連立与党内で具体案づくりが先行し、国民的議論が追いついていないのが実情ではないでしょうか。
参政党はこの緊急事態条項の危険性を徹底的に訴えていきます。有事対応の強化そのものには反対しませんが、憲法に恒久的な非常措置枠を設けることには強い疑念を持っています。国民の自由と権利を守り抜くため、安易な改憲には毅然と反対していく所存です。
私たち参政党は、場当たり的な条文改正ではなく、国民的議論を経て日本人が誇りに思える新たな憲法を創る「創憲」を主張しています。
憲法とは本来、国家としての大きな自覚と決意を示すものです。
私たちは「自分たちの国は自分たちで作る」という基本理念の下、神話や皇室の尊厳、日本らしさを盛り込んだ新憲法草案をすでに発表しています(令和7年5月)。
緊急事態条項の問題も含め、国民全体で議論し、新しい時代にふさわしい憲法を、国民の皆様と共に創り上げたいと考えています。
教育政策の欠落――「デジタル改革」偏重で肝心な教育改革なし
所信表明演説を聞いて特に落胆した点の一つが、教育政策に革新が感じられなかったことです。
高市首相は演説で「来年4月から高校授業料の実質無償化と小学校給食の無償化を実施する」と明言しました。
確かに連立合意にも「令和8年(2026年)4月からの高校無償化・小学校給食無償化を実現する」と具体的な実施時期が盛り込まれており、家庭の教育費負担軽減策として歓迎すべき動きではあります。
しかし、肝心の教育内容改革について踏み込んだ言及がほとんどなかったことに強い物足りなさを覚えました。
連立合意文書には「高校教育改革のグランドデザイン策定」「大学改革や研究投資の強化」「大学数の適正化」等の文言がありますが、それらは教育の質的改革というより制度設計上の話に留まっています。
また、所信表明演説や全閣僚への共通指示を見ると、教育についてはデジタル化や多様な学び、産業界ニーズに応じた人材育成などが中心に語られています。
例えば全閣僚への指示文書には「GIGAスクール構想を進め、時間・場所・教材等に制約されない質の高い教育を実現する」とあり、ICTを活用した教育環境整備には熱心です。また産学官連携による最先端技術人材の育成など、産業競争力強化の観点も示されています。
これらデジタルや実学重視の施策自体を頭から否定するつもりはありません。現代の教育においてICT活用やリスキリングの推進が必要な場面はあるでしょう。
しかし最も根幹にあるべき教育理念や歴史観・倫理観の涵養については、全くと言っていいほど触れられていないのです。
参政党が重視するのは、子どもたちの「心」を育てる教育です。
日本の誇る伝統や歴史の事実に真摯に向き合い、先人から学ぶ姿勢、家族や郷土、国を愛する心を養う教育こそ国家の基盤だと考えます。
しかし高市政権のビジョンからは、その視点が欠落しています。
実際、神谷参政党代表も所信表明演説後に「国の根幹は教育なのに、文言に『教育』がしっかり入っていなかった。本当に薄い内容で非常にがっかりしている」と苦言を呈しました。
経済政策や安全保障ばかりが前面に出て、教育再生への情熱が感じられないのは残念でなりません。デジタル教科書を配備すれば教育改革になるわけではなく、何を子どもたちに教えるかという中身こそ重要です。
私たちは、日本人としてのアイデンティティを育み、自国の歴史に誇りを持てるような「心の教育」の充実を強く訴えます。
高市政権にもぜひこの視点を取り入れていただきたいところですが、所信表明を見る限り期待薄であり、ここは参政党が粘り強く提起していく使命を感じています。
新自由主義的グローバリズムからの脱却が見えない
私が、今回の所信表明演説全体から受けた違和感の根底には、反グローバリズムの視点の欠如があります。
経済運営においても外交・安全保障においても、基本的に、これまでのグローバル路線・新自由主義路線を踏襲しているように見えるのです。
例えば財政政策では前述の通り、「積極財政」と言いつつも市場の信認確保を重視して財政規律を強調する姿勢が示されました。高市首相は「債務残高対GDP比を引き下げ、マーケットからの信認を確保していく」と述べています。
これは市場(グローバルな金融マーケット)の要求に沿った財政健全化志向を意味し、結局のところ従来の財務省路線=新自由主義的な緊縮マインドから脱しきれていません。
参政党は国民生活の再建を最優先し、必要な財政出動をためらわない立場ですが、現政権には依然「国の借金が…」「市場が…」といった発想が根強いように思えます。
また経済政策全般でも、政府効率化や歳出改革徹底など「小さな政府」志向の文言が目立ちます。
連立合意には「肥大化する非効率な政府の在り方の見直しを通じた歳出改革を徹底する」と明記されました。無駄の削減自体は必要ですが、こればかり強調すると結果的に
政府の役割縮小=新自由主義改革
の延長になりかねません。
デフレ不況下で行財政改革一辺倒を進めたことが、平成の「失われた30年」を招いた一因でもありました。
参政党はむしろ積極財政で経済を立て直すリフレ政策(経済再生策)を唱えており、この点で現政権との違いが浮き彫りです。
将来的に行政のスリム化や規制緩和が必要な場面はあるとしても、まずは長年の需要不足を是正するため大胆な財政出動と経済ナショナリズムの観点が重要だと考えます。
外交・移民政策でもグローバリズム色が感じられる
所信表明では「自由で開かれたインド太平洋の下で同志国やグローバルサウスとの連携拡大に取り組む」と謳い、国際協調路線を前面に打ち出しました。
安全保障面では同盟強化など当然のアプローチですが、一方で内政に目を向けると、グローバル経済の中で疲弊する日本の産業や地方をどう守るかという視点が希薄です。
外国人労働力の受け入れについても、連立合意では一応「量的マネジメントを含む人口戦略を策定する」とありますが、移民流入そのものを抑制する明確な方針とは言い難い内容です。
参政党はグローバリズムの弊害として国内産業の空洞化や移民問題、食料自給率の低下などを重視しています。
しかし高市政権の政策からは、真に日本を守る経済ナショナリズム的視点が感じられません。
総じて、所信表明演説から受ける印象は「従来の延長線上」です。
確かに保守色の強い政策も散見されますが、本質的には戦後日本が追随してきたグローバル路線(国際協調と新自由主義経済)から大きく舵を切るものではないように思えます。
神谷代表が指摘した「自民党の枠を超えていない」という言葉通りであり、国益最優先・自主独立路線への転換は不十分です。
参政党は日本で唯一の反グローバリズム政党を標榜し、食料やエネルギーの自給、国民生活の安定を最優先に据える政策を訴えています。
他党が及び腰な部分でこそ、我々参政党の出番があると考えています。

